キーワード:高齢者、転倒予防、歩行速度、筋力、バランス、リハビリ
今回は「高齢者の転倒」について、科学的根拠のある情報を紹介いたします。
転倒に対して不安のある方、身近な人に教えてあげたい方はご覧ください。
そもそもなぜ転ぶのか
高齢者の転倒は、 寝たきりを引き起こす主要な原因の一つにあげられ、 要介護リスクを減らす為にもその予防は重要であるといわれていま す。
一般的なイメージとして、
高齢者の転倒 = 体が弱った・足の筋肉がなくなった
など身体機能が低下したせいでフラフラして転ぶというイメージが 強いと思います。
しかし実際には・・・
転倒の危険因子は多岐にわたるといわれており、 いろいろ研究されてる中でも100を超える危険因子が報告されて いるんです。
そしてこれらは、
- 身体内部に起因する内的因子
- 環境などの外的因子
に分類され、 相互に関係を持ちながら転倒を引き起こすと考えられて います。
ちなみに主要なものを抜粋すると、
【内的因子】
- 立位バランス能力低下(重心動揺、片足だち能力など)
- 歩行能力低下(歩行速度、一歩行周期の時間変動 等)
- 筋力低下(握力、膝を伸ばす力 等)
- 認知機能低下
- 感覚機能低下(足裏の感覚が鈍い、視覚)
- 疾患に起因するもの(脳卒中片麻痺、パーキンソン病 等)
【外的因子】
- 薬物使用(鎮静剤、抗うつ剤 等)
- 床面(滑りやすい、柔らかい床 等)
- 自宅環境(室内段差、照明不良 等)
- 履物(スリッパ、サンダル、サイズ)
などがあります。
ですので転倒予防の為にはこれらの因子がどのように関連して転倒 を引き起こしやすい状況になっているかをしっかりと調べなくては なりません。
が、ご自身でそれをチェックすることは難しいかもしれません。
転倒の危険性をセルフチェック
ここでは、ご自身でも簡単に転倒の危険性を調べることができる 方法をお伝えします!
❶転倒歴
これはもっとも簡単ですが重要なことです。
「転倒骨折者は過去一年以内の転倒経験者である」「1回転倒者の8割前後は1年以内に複数回転倒する」
といわれており、過去に転倒経験がある方は要注意です。
❷歩く速度
歩行速度の目安としては、
横断歩道を渡りきる速さが1.22[m/sec]とされ 、1.0[m/sec] 以下になると下肢障害や入院、 死亡の危険性が上昇することが指摘されています。
また 0.8[m/sec] 以下はサルコペニアの診断基準の一つとして使用されています。
更に転倒する人・つまずく人・ ふらつく人をグループ分けした時の歩く速さは
- 転倒する人:1.31m/s
- つまずく人:0.93m/s
- ふらつく人:0.61m/s
となり転倒予防の観点からは少なくとも 1.0[m/sec]以上の歩行速度が必要であるとされています 。
<調べ方:10m歩行速度測定>
16mの直線歩行路を作ります。
前後に3mずつの予備路を作り、 最速歩行で10mの歩行時間を測り10m÷ 秒で速度を算出します。
簡単に言うと10秒以上かかる方は転倒リスクが高いということです。
❸筋力
「高齢者の筋力低下群は低下なしに比べて転倒の危険性が5倍」、「屋内転倒の危険性は膝伸展筋力35%WBI以下で増大する」
しかし膝伸展筋力というものはどこでも調べることができるわけで はありません。
そこで代わりに「5回立ち座りテスト(SS-5)」というものを利用します。
5回の立ち座りに要する時間が14秒以上だと転倒リスクが7倍になる
といわれています。
下の表は年齢別基準値のサンプルです。
ご自身のレベル判定にもご利用 下さい。
<調べ方(5回立ち座りテスト)>
ひじ掛けがない椅子(高さ40cm程度)に浅めに座り、 両手を胸の前で交差します。
立ち座りを5回繰り返し、それに要した時間を測定します。
(両膝がしっかり伸びるまで立ち上がり、素早く座る。)
❹バランス
「片脚立ち時間は転倒歴のあるものでは30秒以内」
「健常高齢者で15秒、要支援以上の介護保険給付者では3秒以下」
といわれています。
また15秒以内では運動器不安定症と診断されます。( 日本整形外科学会)
片脚立ち時間が20秒以下の方は転倒リスクが高くなる
といわれて います。
<調べ方(開眼片脚立ちテスト)>
片脚立ちの時間を測るという比較的容易なテストですが注意が必要 です。
・ つなわたりをする人のように腕でバランスをとってはいけません。
・支持してる足でステップするようなうごきがでたら中断です。
・あげてる足を支持してる足にくっつけてはいけません。
❺転倒スコア
アンケート式のスコア用紙があり、それが10点以上だと転倒リス クが高まります。
国立長寿医療研究センターにページがありますので参考にしてみて ください。
転倒予防手帳
このように比較的簡単なテストで転倒リスクが高いか否かがわかり ますので、やってみて転倒リスクが高い方は要注意です。
しっかり運動、そして転倒骨折に至って後悔する前に、 転倒に関しての専門家である我々理学療法士に一度ご相談下さい。
<参考資料>
転倒予防のための運動機能向上トレーニングマニュアル 南江堂 2013
金憲経.転倒リスクと歩行との関連:バイオメカニズム学会誌, Vol. 38,No.4(2014)大村沙弥花、 廣瀬圭子 他. 2種類の椅子からの立ち上がりテストと等速性膝伸展筋力との関係 : 理学療法―臨床・研究・教育 18 : 67–70,2011.